和歌山県に高野山という不思議な町があります。1200年前に弘法大師によって開かれて以来、時代の変化に取り残された秘境です。深い山々を延々と登っていくと、人里遠く離れた山上盆地にお寺とお墓だけの町が突如として現れます。今では電車とケーブルカーが近くまで来ていますから誰でもアクセスできますが、それも1930年代のことですから、それまでは文明とは完全に隔離された修行の地でした。
高野山へは7つのアクセスルートが開かれていて、いずれも、山道をひたすら歩くようです。その中で最も容易でポピュラーな道が町石道といわれる慈尊院から高野山までの22キロのコースです。休みを利用して、この道を歩いてみました。
慈尊院から高野山山門まで、町石と呼ばれる道標がいくつも建てられていて、高野山までの距離が示されています。スタートは180町石で、1町(約109メートル)ごとに町石を見つけながら歩きます。等間隔ではないことや、逸れたところに置かれている町石もあるようで、すべてを見つけることはできませんでした。
世界遺産に指定されている道なので、町石のほかに道標があるにはあるのですが、22キロのコースの最初から最後まで「慈尊院―大門」という両端を示したとてもアバウトなもので、途中の見どころを楽しむというより、信仰の道を歩くことそのものを純粋に楽しむという道です。
最初の3キロと矢立からの2キロ、そして最後の1キロは急な登り坂ですが、それ以外は、比較的緩やかな登りですから苦になりません。ただ、出発から15キロほどの間、集落も売店も自動販売機も何もない山道がひたすら続きます。矢立という国道との交差点に山小屋があり、飲料と多少の食料を補給できる場所はそこだけです。僕は、途中で補給できると思っていて、500mlのペットボトル飲料1本だけで歩き始めてしまい、途中で大いに困りました。途中で出会ったドイツ人にもらったナツカンがなかったら、リタイアしていたかもしれません。
結局、休憩を含め、6時間ほどかかって山門に辿り着きました。日頃の雑念から距離をおいて、昔の修行僧に思いを馳せながらひたすら歩く一日は、とても有意義なものでした。
データ(デバイスでの計測ですので、多少の誤差があります)
- 歩行距離 23.8キロ(九度山町駅から大門まで)
- 移動時間 5時間11分(休憩を除く)
- 獲得高度 1149メートル
- 最高高度 859メートル