帰納法と演繹法

論理的思考の教科書に必ず出てくる概念なのですが、論理的思考の教科書以外で使う機会が全くないので、言葉の意味がピンときませんでした。一応、修士号をもっている自分でもこの程度ですから、多くの人は良く理解しないまま、単語だけを覚えている状況だと思います。

英語では、帰納をinduction、演繹をdeductionといいます。inductionは、induceという単語に「誘導する」という意味があるので、なんとなく、事象から誘導された推論を指すのではないかと想像できます。一方、deductionは、「引き算」とか「控除」という意味がありますが、どういった考え方を指すのかよくわかりません。

シャーロック・ホームズは、Deductive Reasoningを用いて事件を解決しているようです。ここで漸くピンときました。彼が事件を捜査するとき、まず事実を徹底的に拾い上げて、それらが示唆する多くの仮説を立てます。そこから、彼を名探偵と言わしめる彼の比類なき才能が発揮されていきます。即ち、彼は、犯罪に関する幅広い分野で多くの知見を有していて、そのひとつひとつが、彼の考えの中では「証明された」ものなのです。そして、それらを駆使して仮説をそぎ落とし、残ったものが結論であり、思考過程がすべて「証明」されていることから、それ以外の結論はあり得ないということになります。

赤毛連盟では、赤毛の質屋の主人による赤毛連盟の突然の解散という相談から始まり、事実を観察する過程で数多くの仮説を読者に提供します。 様々な仮説をそぎ落とした結果、 「銀行の地下金庫へのアクセスが、近隣からトンネルを掘ることによって可能で、且つ、決行するとすれば逃亡の時間を稼げる土曜の夜」という彼の洞察が、犯人の現行犯逮捕に繋がりました。

演繹法は、このように、堅い根拠に裏打ちされた知見や物事のの原理原則から、仮説をそぎ落として、残ったものを結論として扱う考え方です。そして片方がわかると自ずと、もう片方が理解できます。即ち、帰納法は、観察される事象から共通項を探し出して結論を導くという考え方で、演繹法と比較すれば極めて危うい(?)結論になります。

最後に、危うい結論を導くと表現した帰納法を擁護しておくと、事実を注意深く観察し、原理原則だと思われていることを疑ってかかることで、真の結論を導くことができるという考え方からきています。この考え方を提唱したフランシス・ベーコンが生きた時代(17世紀前後)は、科学と神学が切り離されていたとはいえず、「天動説」に見られる神学的なものの見方が一般的でした。だからこそ、事実観察が何より重要だと説いたのです。

実際、シャーロック・ホームズの過度に主観的な知見は、帰納法的な考え方で、ときどき訂正されているのです。

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