マイナス金利政策の解説

金融政策は、日銀という、政府からは独立した機関が独自の判断で行う景気調整の手段です。2013年3月から黒田さんが総裁をなさって、政治からの独立性を維持しながらも安倍政権と歩調を合わせたリフレ政策を主導してきました。就任当初から量的緩和といわれるマネタリーベースの拡大を決定し、2016年からはマイナス金利政策を導入しています。とにかく「金利を下げ」て、投資や消費行動に働きかけて内需を刺激するという金融政策の伝統的な狙いはわかるものの、金利率が既にゼロになってしまっているので、非常に専門的な「金利を下げ」る手段が話題になっています。だから、金融の専門家以外、何を言っているのかよくわかりません。

2019年3月16日の日経新聞1面に、マイナス金利政策が足元の物価の伸びに繋がっていないというデータとともに、その功罪両面を紹介する記事が載っていました。そその紹介をしながら、マイナス金利政策の解説を試みました。

2019年3月16日 日経朝刊1面より

マイナス金利は銀行の貸し渋りを招く

記事によれば、マイナス金利政策を先行して導入したスウェーデンのデータ検証をもとに、米国の元財務長官ローレンス・サマーズとノルウェー中銀のエコノミストが主張しているとのこと。

そもそも、マイナス金利は、銀行預金が目減りするという状況ですが、決して企業や個人の預金が目減りするということではありません。あくまで、中央銀行と市中銀行の間の預金金利に適用されます。市中銀行はマイナス銀行を適用されてしまう中央銀行向け預金を当然避けようとしますが、他に置く場所もなくそれが出来ないどころか、中央銀行がいろんな資産を買い上げお金を市中にばらまくので、市中銀行にお金が集まってしまい、中央銀行向け預金を意図せず増やしてしまいます。実際、日本のマネタリーベース(日銀に預けられた預金と流通している現金の合計:大半が日銀当座預金)は2013年に100兆円を少し超えるレベルであったものが、2019年には500兆円を超えています。

即ち、市中銀行から見れば、望まないマイナス金利預金が増えてしまい、それが業績を引っ張り、企業や個人への貸し出し金利を上げざるを得ないという状況に繋がるとの主張です。

マイナス金利は物価の低迷を招く

この主張の出典は定かではありませんが、感覚的には理解できます。資本コストが低いので、低収益でも事業が成り立ってしまい、それが過当競争を助長して物価が上がらないという主張です。ただ、低収益も過当競争も、マイナス金利以前から日本経済にあった問題ですから、マイナス金利の罪というには少し乱暴という気がします。

利上げがむしろ経済を刺激する

米コロンビア大学のマーチン・ウリベ教授や早稲田大学の小枝淳子准教授による実証分析は、段階的な利上げステージで物価が上昇しているという事実を示しており、その解釈として、段階的な利上げが景気が上向いていることを想起させ、そのアナウンスメント効果が経済活動を刺激しているという主張が紹介されています。即ち、マイナス金利政策は、経済にとってマイナスだという主張です。

物価が上がるということを示唆するアナウンスメント効果により景気が刺激されるという主張は、90年代後半のインフレーション・ターゲットという、中央銀行による物価誘導目標設置の是非に関する議論にも見られました。実際、日銀も未だ2%という物価上昇率目標という看板を下ろしていません。しかし「マイナス金利」という言葉の響きと「物価上昇」は、すぐには結び付かず、もしアナウンスメント効果が景気刺激に重要な役割を果たすなら、「マイナス金利政策」という言葉は、ちょっと考え直した方がいいかもしれません。

日銀の現在のスタンス

米中貿易摩擦の影響や、世界の工場である中国景気の減速はあれど、それらは一時的であり個人消費や企業投資は底堅いとの分析で、日銀の景気の見方はコンセンサスに比して強気といえます。マイナス金利政策の一定の成果を強調し、むしろ、この政策がなければ底割れもあり得たとの見方です。

おそらくそれは事実でしょうが、問題は、次の一手がないという金融政策の手詰まり感が、市場の心理を幾ばくか冷やしているということでしょう。マイナス金利政策が金融政策の「最後の手段」であったなら、それは抜くべきではない宝刀だったのかもしれません。市場に対して、何かが変わるという期待感を醸成させるような金融政策上の次の一手が見えてくれば、改めてそれをレポートします。

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