ドラッグ・リポジショニング

すでに化合物の物質特許や用途特許が切れている医薬品を、別の領域の医薬品として再開発する動きは、ドラッグ・リポジショニング(Drug Re-positioning)とか、ドラッグ・リパーパシング(Drug Re-purposing)といわれます。まずは、英Economist誌リーダーセクションの記事を紹介します。

Too rarely raised in this discussion is one promising area where pillmakers and governments alike could do more to fight disease while also saving money. Drugs can be “repurposed” (see International section). That is, existing drugs can sometimes be used to treat diseases other than the ones for which they were first designed. This can be a cheaper way to develop new treatments. It could also help answer another criticism often thrown at drug firms: that they do not invest enough in areas where medical need is great but financial returns are unattractive, such as rare cancers, new antibiotics and medicines for children or poor countries.

The Economist dated Feb 28th 2019

日本では、物質特許は出願から20年(最大5年の延長あり)、さらに薬効追加による用途特許として最大5年の間、権利独占が法的に認められます。製薬企業はこの権利独占期間があるからこそ、物質探索から臨床試験まで莫大な投資を行います。この仕組みは長らく有効に機能し全世界で多くの患者を救ってきましたが、未だ有効な医薬品のない疾患がたくさんあり、製薬企業への期待は全く衰えていません。ところが、製薬会社の方では、化合物探索が頭打ちになり、バイオ医薬はまだまだ難しく、患者数の小さい領域では開発投資の回収が難しいという財務的な問題を抱え、経営的に余裕がなくなってきています。上記で紹介した記事によれば、7000種類に及ぶ遺伝子系希少疾患に対して、たった400種の医薬品しか提供されておらず、昨年承認された59の医薬品のうち、有効な医薬品が提供されていない疾患に対するものはゼロでした。

一方で、既に特許が切れた化合物が、科学的には証明されていないものの、承認された疾患とは別の疾患に効いているという例はたくさんあります。あるいは、薬効とは別の理由で、開発が途中で中止された化合物もたくさんあります。製薬会社からすれば、科学的な証明には言うまでもなく臨床試験が必要で、特許で権利独占を保証されない、あるいは特許保護期間が短い化合物への投資に対して、どうしても二の足を踏んでしまいます。 ドラッグ・リポジショニングは、こうした例を念頭において主張されています。

商業的に使われていない物質特許をデータとともに業界で共有し活用を促すとか、そのうえで物質特許と用途特許とを切り離して、用途特許の保護期間を延ばすとか、製薬会社の投資を促す制度を整備できないものでしょうか。

他業界ではむしろ独占状態をいかに解消するかという課題を抱えているので、製薬業界はなんとも恵まれ過ぎた主張をしているように見えますが、法律上は筋が通っています。そもそも、独占禁止法は知的財産法(特許、実用新案、意匠、商標、著作権)で守られている独占期間を審査対象としません。市場競争を促さずとも、その知財保護そのものが企業の開発投資を促進して、消費者が必要とするものを妥当な価格で提供する枠組みになっているとの考え方です。そこが機能していないので、何とかしてほしいというお願いなのです。

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