前年比と予算比

外資系企業での経験を経て強く感じたことのひとつに、「前年比を重視しない」というものがあります。全く見ないということはありませんが、日本企業に比べてその重要度は数段低く感じました。過去を過度に顧みない姿勢は、財務分野のみならず、いろんなところで感じます。ある問題に対し、日本企業では過去の経緯を徹底的に調べて前例を洗うところから始めますが、外資系企業では将来の影響の分析に重きを置きます。ついでにいうと、人事面談の際に過去の失敗をネチネチ問われることはなく、主としてその失敗を将来にどう生かすかということを話し合いました。

この違いが文化的なものか、私のいた環境が特殊だったのかはわかりませんが、外部から業績を評価する株式アナリストの見方も同様の傾向があります。株式アナリストは、財務部門が多大な努力をかけて纏め上げた数々の前提に基づく数字と株価とを、あまりにもシンプルに関係づけます。会社から出される数字と周辺情報から一株利益を予想して、株価収益率(PER)を使って適正株価なるものを計算し、現在の株価との比較からBuyやSellを推奨します。投資家は多少なりともその推奨を参考にするので、財務部門としては、その判断の基礎となった予想一株利益を何とか維持し、さらには利益の上乗せを意識しています。

このシンプルな枠組みにおいて前年比という概念は出てきません。株式市場は過去には目もくれず、常に予想との比較を気にしています。買った時点より以前に計上された利益は、買ったときの価格に織り込まれているので、今、株式を保有している人にとっては、将来に明るい見通しがあるかどうかだけを気にします。

株式アナリストの見方のためなのか、もともとそういった文化的傾向があるのか、その両方なのか正確なところはわかりませんが、経験に基づく事実として予算比がもっとも重視され、前年比だとか、まして赤字か黒字かといった情報はあまり重要ではありません。

予算と実績に乖離があるとき、①その理由を掘り下げ、そして②どうやったら乖離がなくなるのか徹底的に説明を求められます。①に対しては、あらかじめ予算の前提を論理的且つシンプルにしておくことが重要です。そして大事なのは②を準備することです。経営者は①よりも明確に②に興味があります。②がないまま話を始めても最後まで聞いてもらえませんから、話すことさえ憚られます。

多くの財務マンが、前年比の説明に終始し、予算との乖離に対する説明が不十分で、さらにはその乖離を埋める提案なく話を終えてしまいます。話の順序さえ逆で、まず、乖離をどう埋めるか提案し、その根拠として、乖離の理由や過去との比較を使うべきでしょう。決して簡単ではありませんが、財務マンなら常に心掛けるべきだと自戒しています。

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