大企業で会計に従事する人なら、連結決算の手続きについて少なからず造詣があると思います。子会社や関係会社の数字をどうやって親会社の数字に組み入れるかという、少しばかり頭の体操を伴う業務です。というのも単純に足し算すると、子会社宛てに計上した売上とが二重に計上されていたり、親会社から子会社に販売したもののまだ外部に売れていない商品に関係する利益を消去したり、バランスシートにある親子間の貸借を相殺したり、単体決算にはない手続きが要求されます。
もし、子会社や関係会社との取引(関係会社取引)が全くなければ、連結決算は個別決算の単なる足し算になりますから、この関係会社取引をどう記録していくかは厄介な問題です。
この点に関するグローバル企業の手法を俯瞰したとき、大きなパラダイムシフトを経験します。
関係会社間の貿易取引について、日系企業では取引ごとに適正利益を乗せた価格を適用して決済しますが、グローバル企業では、すべての貿易取引にトレーディング・カンパニーを介在させ、そこでインボイスをスイッチして価格を変更し、トレーディング・カンパニーに利益を溜め込みます。関係会社取引の相手方が異なる通貨を使用している場合は、通貨も変更してしまいます。多数の関係会社が絡む複雑な貿易取引も、各社から見ればトレーディング・カンパニー1社との取引になり、各社で使用する通貨で記帳、決済する単純なものとなります。トレーディング・カンパニーでは、トレジャリー管轄のもと、取引に内在する為替変動リスクを吸収し、税務戦略に基づく内部利益の配分を各国に対して行います。
内部利益の分配に関する議論は自ずと、「この国は税率が高いから、利益を小さくしよう。」「この国は税率が低いので、利益を大きくしておこう。」といった生々しい議論になります。もちろん、株主と各国税務当局との利益の取り合いですから、税務戦略という仰々しいテーマのもとで、緻密なロジックを組み上げます。これも財務チームの大事な役割です。
個社利益の足し算で連結利益を計算する日系企業のアプローチとは、異なるアプローチです。おそらく、最初から連結ありきで設計すればグローバル企業のアプローチが非常に合理的なのですが、日系企業はまず個社決算ありきで設計するので、どうしても足し算になってしまいます。内部利益をどう分配するかという問題は、深堀りしてみるとグローバル企業と日系企業の損益管理手法の違いを示す端的な問いだったのですね。