投資の評価方法を勉強すると、サンク・コストという言葉によく出くわします。直接的には過去に使った費用のことを指しますが、投資評価においては、過去に使った費用は採算上考慮すべきでないという文脈でよく見かけます。
サンクコストとは、すでに支出されて回収できない費用のことです。経済学や経営学では、意思決定に影響しないコストとして扱われます。サンクコストは、過去にかけた時間やお金などが正しい判断を妨げることがあります。例えば、高い料金を払って映画を見に行ったとします。映画がつまらなくても、料金がもったいないと思って最後まで見るのは、サンクコストに引きずられていると言えます。サンクコストに囚われないで、現在や未来の利益や損失を考えることが大切です。サンクコストは回収できないので、意思決定には関係ありません。
ChatGPTより引用
難しいのは、「すでに支出されていて回収できない」部分の見極めです。投資評価にキャッシュフローを用いる財務分野ではこの部分の見極めが明快で、過去に支出した費用は一切考慮しません。どう考えても投資回収できないリニア新幹線事業の継続も、成功する雰囲気を全く感じない大阪万博への投資も、過去に支出した費用は一切考えず、将来の収支だけを評価することが正しいと教えてくれます。
財務分野で仕事をしていて、この明快な割り切りに違和感を覚えることが多々あります。10兆円ともいわれるリニア新幹線事業で既に4兆円を投資している段階で事業を再評価するとき、残り6兆円を投資していくら回収できるかを計算するのですが、それで仮に7兆円しか回収できないとしても、6兆円に対して1兆円の回収超過になるから良しとします。財務を勉強した方からは誇らしげに「過去の4兆円を考慮してはいけない」と声高に言われます。もっと質の悪いケースでは、過去の投資を考慮しないという教科書的な教えを免罪符にして、事業継続を主張します。おそらく、世の中でたくさんの事例があると思います。
ここで決定的に欠けている議論は、10兆円事業で7兆円しか回収できない状況になっている理由の検証です。当初の目論見が外れていることは明らかで、そうしたことが将来も起こるを考えるべきで、既に一度目論見を外していることで、将来そうした目論見はずれが起こる確率は高まっています。それがまさしく、「すでに支出されていて回収できない」部分の見極めであり、回収できない部分は、やはり投資評価に入れて考えるということになります。当初10兆円以上回収できると見込んでいて、今の見通しが7兆円であれば、次の見直しでは5兆円になってしまうかもしれません。そうであれば、財務評価においても事業を継続する選択肢は否定されます。
だから、サンク・コストを投資評価上考慮しないという考え方には注意が必要です。むしろ、考慮すべきといった方が、健全な意思決定に繋がるとすら感じています。