ECサイトで注文してお客様に商品をお届けするというビジネスモデルは毎年拡大を続けていて、2022年時点で14.0兆円(前年比+5.37%、商取引全体に占めるEC取引の割合(EC化率)は9.13%)になっています [経済産業省, 2023]。現在ではEC化率が10%を超えていると思われますが、まだまだコンビニやドラッグストア、ブランドショップや家電量販店などの実店舗を通じた物販が主流である状況に変わりはありません。このEC化率は、近い将来どこまで上がって、それが物流業界にどういった変化をもたらすのか、そのひとつの鍵である消費者への商品配送の切り口から考えてみました。
消費者への商品配送は業界で「ラストマイル」と呼ばれています。1976年に小倉正男さん率いるヤマト運輸がラストマイル市場に「宅急便」を導入してイノベーションを起こして以来 [ヤマト運輸, 2019]、長らく、ヤマトや日本郵便、佐川など物流サービス大手がラストマイルの担い手でした。しかしここ数年、再びラストマイルでのイノベーションが急速に進んでいます。事例をあげますと、米国発祥のUberはUber Eats、Uber Directsという2つのフォーマットで食品に限らず日用品や医薬品までもカバーしたラストマイル配送を、ドライバーと小売店舗、消費者をつなぐプラットフォームを提供することで実現しています [Uber Technologies Inc., 2024]。家電量販店のヨドバシカメラは、「ヨドバシエクストリーム便」という商品や配送地域を限定した自社配送サービスを展開し、家電に限らず広く売れ筋の日用品を扱いながら家電量販店におけるEC売上で際立った存在感を示しています [Impress Watch, 2024]。また、都心では食料品を中心に注文から最短20分で配送を完了するネットスーパー「オニゴー」 [OniGO, 2024]が展開されています。
これらのサービスはいずれも消費者に速さを訴求していて、ラストマイルの配送速度が消費者の購入場所選択に影響を及ぼしていることがわかります。都心では10分も歩けばコンビニやスーパーマーケットがあることを踏まえれば、ラストマイル配送サービスは極めてリーズナブルな価格で提供されていると考えられます。サービス価格は、1) ドライバーさんの労務費、2) 燃料費を含む車両の使用料、そして3) 単位時間あたりの配送件数によって概ねの水準が決まり、ラストマイル配送を手掛ける事業者はサービスコストで他社に差をつけて利益確保を目指しています。1)について配送によって生計を立てていてどんな時間帯でもサービス提供するプロフェッショナルと、すき間時間で変則的にサービス提供するアルバイトさんでは報酬単価が異なります。2)について軽バンかバイクか自転車かによって単価が異なります。しかし最も大きな価格差を生み出す要素は3)で、これは単位面積あたりの配送件数(配送密度)、1件あたりの配送時間、ドライバーさんの勤務時間のうち配送業務に充当する時間などによって決まります。例えば、8時間を単位時間としたとき、都心の配送密度の濃い地域で、地図アプリを用いて最短ルートを検索しながら置き配を活用して1件あたりの配送時間を短くして、8時間すべてを配送業務に充当するほど商品があるとき、単位時間あたりの配送件数は最大になります。実際には1)2)3)は密接に関係していて、プロフェッショナルドライバーさんは、報酬単価は高いものの地図アプリにかかわらず道をよく知っていて、1件あたりの配送時間は短いでしょうし、軽バンと自転車では一度に積める荷物数が異なり、倉庫にいちいち戻らなくてよい軽バンの方が配送業務に充当する時間は長いでしょう。逆に、軽バンに積むほど荷物の量がない場合は自転車の方が安くついたりと、それらの組み合わせによってコストが変わってきます。しかも、消費者の場所、注文数量、荷物の大きさは、毎日変化し、組み合わせの最適解が毎日変わります。
ラストマイル配送は、毎日変化する配送需要に対して、上記1)2)3)それぞれの構成要素を変化させながら、複雑な計算を経て最適な組み合わせを追及する事業ですので、高度なDX活用が競争力を高めることができる事業といえます。ヤマトが宅急便でイノベーションを起こして以来、ラストマイル配送の担い手であった物流サービス大手が、この事業におけるDXの重要性をどこまで正しく認識し、競争力を高める投資をどこまで行ってきたか、内情を知る立場にありませんが、ラストマイル配送の値上げやサービスレベルの劣化(配送に要する日数増)など昨今の状況を鑑みますと、DXを武器に台頭してきている新興勢力に見劣りしているように見えます。
では最後に、ラストマイル配送の充実が何を引き起こすかを考えてみます。ヨドバシカメラやオニゴーの事例から、対象商品が益々充実し、配送地域が拡大することは間違いないと思われます。そしてそれがまた、配送密度増加を通じてラストマイル配送の充実に繋がります。そうすると小売店舗が淘汰され、長らく、スーパーマーケットやコンビニなど消費者に近い場所で在庫を持つことで高くついていた在庫コスト、物流コストが是正され、商品の在庫場所が規模の大きな倉庫に集約され、上流の配送も集約化されます。これら一連の変化が物流DXによるイノベーションであり、ここに目をつけて大規模変革を主導している世界的企業がアマゾンです。
参照文献
Impress Watch. (2024年8月24日). ヨドバシエクストリーム便の凄さを社長に聞く. 参照先: Impress Watch: https://www.watch.impress.co.jp/docs/topic/1374037.html
OniGO. (2024年8月24日). 参照先: OniGO: https://onigo.co.jp/
Uber Technologies Inc. (2024年8月24日). 参照先: ubereats for merchants: https://merchants.ubereats.com/jp/
ヤマト運輸. (2019). 統合レポート2019 ヤマトグループ100年の歩み.
経済産業省. (2023). 電子商取引に関する市場調査.