トレジャリーの役割は、財務リスクの徹底回避であることを申し上げました。しかしながら、リスクを回避するにもリスクの測定ができないと手の打ちようがありません。リスク回避のつもりが実際にはリスクを増やしてしまっているという状況は、私の経験からいって少なくありません。
貿易や海外活動を行っている企業にとって、為替リスクは身近なリスクでありながら、その測定ができていません。測定ができていないので、輸出入で外貨建て債権や債務が生じたらすぐに(あるいは〇%まで)為替予約でレートを確定させるというルールを設けてリスクを減らしている企業が大半でしょう。トレジャリー部門が機能しているなら、まずは組織全体の為替リスクを測定して、リスク回避のためのいくつかの手法のうち最適なものを選択して、回避を図ることが理想です。
そもそも会計システムはしっかりお金をかけて構築しているものの、財務リスクの把握はほとんど手作業というところも多いのではないでしょうか。両者は全く異なるとはいいませんが、会計システムに入っているデータや分析ツールは、財務リスクの把握に十分ではありません。大企業ではERP(Enterprise Resource Package)と呼ばれる、会計を業務フローからコントロールするシステムが採用されていて、その中に財務リスクを把握するためのモジュールがあるのかもしれませんが、私が知る限り、財務リスクの把握は会計システムに入っているデータ以上のものを使用して、独自の分析を行う必要があることから、トレジャリー部門専用システムがどうしても必要になると考えます。
両者のデータで決定的に違う点は、会計システムが過去のキャッシュフローを記録して現在のバランスシートを固めることを目的としたデータを集めるのに対し、財務リスクの把握は将来のキャッシュフローに関する詳細データを集めるという点です。会計システムでも、3か月後の支払といった、将来のキャッシュフローに関するデータを持っていますが、例えば、円と外貨とを交換する為替予約に関する将来のキャッシュフローを通貨別には持っていないと思います。
前後しますが、トレジャリー部門で財務リスクを把握する専用システムを構築する前に、トレジャリー部門にリスクが集まる仕組みを作っておかないといけません。資金のやりとりや為替予約などの金融取引はすべてトレジャリー部門と行い、トレジャリー部門だけが口座管理や銀行取引を行う仕組みは必須です。子会社であれ関係会社であれ、また地域を問わず、組織全体で仕組みを構築したうえで、財務リスクの把握を行います。必然的に、為替レートや借入金利は社内レートで統一されます。業務の効率性を考えて、それらは頻繁には変更されず、グローバル企業では1年を通して同じレートを使うケースが一般的だと思います。
財務リスクを測る枠組みとして、まず、体制面のトピックを纏めてみました。次は手法面のトピックに触れてみます。