品質向上を掲げている組織では、逸脱が生じたときに「全数検査」によって再発防止を図ります。全数検査は、品質向上という目的に対して、一見、万能に見えますが、場合により、とんでもないノイズを生じさせることに注意が必要です。数学的には「条件付き確率」でカバーされます。
ここでいうノイズは、不良品ではないのに、検査で「不良」と検出してしまう数を表現しています。検査が確実に不良品を検知し、確実に良品を検知するのであれば、当然ノイズは生じませんが、そんな検査手法には出会えた試しがなく、多くの場合、見過ごしや誤検知を含んでしまいます。
検査で検知された不良品のうち、真の不良品が占める割合を「適合度」または「精度(Precision)」といいます。精度は「検査で不良品と検知されたもののうち、それらが本当に不良品である確率」を表す条件付き確率です。精度が低いと、不良品ではないものまで不良品と検知してしまいノイズが増えることは感覚的に理解できます。この「精度が低い」という状況は、検知が非常に難しい(再現性が得られにくい)状況のほか、そもそも不良率が極めて小さいときにも生じます。
例えば、不良品を検知したときの再現性が80%と、そこそこの水準であったとしても、実際の不良品率が40%のとき精度は73%ですが、実際の不良品率が10%のときは31%、それが0.1%のとき精度は0.4%まで落ちてしまいます。こうなると、検知した不良品のうち99.6%は良品だということになり、検査数を増やせば増やすほどノイズが増えてしまいます(徒に複雑にしないよう適当な前提をおいて計算しました)。
この問題をもう一段、深堀りすると、最近の新型コロナウィルスに関連して国民全員がPCR検査を受けるべきといった議論において、検査前有病率によって大きなノイズが生成されるかもしれないということに気付きます。
仮に検査前有病率が0.1%だったとして、80%の再現性を得られる検査方法で10,000人を検査したとすると、実際には有病者ではないのに検査で有病だと判断されてしまう方は1,998人もいます。この数字を見ると、検査数を増やすことが良いとは全く思えません。
不良品の分析や有病者への対処などに多大な負担を強いられる場合、ノイズが大きいとオペレーションが破たんします。検査数を増やすという選択には慎重な判断が必要なのです。