モチベーションの話(後編)

前編では、ホーソン工場実験、マクレガーのX理論Y理論、ハーズバーグの2要因(Motivator-Hygiene)理論というモチベーションに関する有名な古典的論文を取り上げました。後編では、こちらも長年読み継がれてきたリビングストンのピグマリオン・マネジメント、マクレランドの権力動機理論、モースのコンティンジェンシー理論について触れていきます。

ピグマリオン効果

ピグマリオン効果(Pygmalion Effect)とは、戯曲「ピグマリオン」に由来し、教育現場で生徒への期待が成績に与えるポジティブな影響を指しています。米国HBSの教授であったリビングストンは、経営の現場でこのピグマリオン効果を確認し、部下への期待が適切に与えられているチーム、さらに、部下に期待を与えて彼らの能力を引っ張り上げることに自信を有している上司がいるチームほど、高い生産性を示すことを論じました。そして、この効果は新入社員のころに最も大きく表れ、そのために、新入社員の直接的なマネージャーとなるラインマネージャーの能力引き上げが重要であると主張しました。

部下への適切な期待は、エドワード・デシの提唱した内発的動機付け(Intrinsic Motivation)に働きかけるひとつの方法です。彼は、報酬などの外発的動機付けはむしろ生産性を低下させるとして、仕事や課題解決そのものに喜びを見出すような状況がどうやって生まれるかを研究しました。その研究は心理学分野のかなり学術専門的なものなので、僕には説明しきれません。

権力動機の重要性

米国の心理学者マクレランドは、優秀なマネージャーを突き動かす動機について面白い研究を発表しています。多くの研究が、物事を成し遂げたいという達成動機(Need for Achievement)こそ優秀なマネージャーを突き動かすと論じる中、彼の研究は、権力動機(Need for Power)が多くの優秀なマネージャーに備わっていることを論じました。大きな組織では、すべてを自分で成し遂げることはできず、人を動かす結果として物事が成し遂げられる場合が多く、優秀といわれるマネージャーには、人を動かしたいという動機が少なからず備わっているようです。この権力動機は、部下と仲良くやりたいという親和動機(Need for Affiliation)と相容れない部分があり、親和動機が小さくとも、部下からの信頼を維持するために、私利私欲に走ることなく自分自身を律して、組織のために働く姿勢を貫かなければならないと説きました。

コンティンジェンシー理論

最後に、米国経営学者モースによって提唱されたコンティンジェンシー(Contingency)理論について紹介しておきます。この理論は、マクレガーのY理論を発展させたものとして説明されています。Y理論は、社員の自己実現欲求を満たすために彼らを積極的に経営に参加させるアプローチが望ましいというものですが、そのアプローチが適合している組織もあれば、そうでない組織もあることについて、「組織特性」という概念を入れて説明を試みました。組織特性には、形式特性(Formal Characteristics)と環境特性(Climate Characteristics)があります。前者は、実際のオペレーションについて、定められたルールの緻密さやその運用状況についての評価です。後者は、組織構造や人間関係、経営スタイルといった、社員の労務環境に影響を与える要素についての評価です。調査の結果、業務内容に応じて、組織特性に大きな違いがあることが示され、生産性の高い組織ほど、組織特性と業務内容とが適合しているということがわかりました。

以上、モチベーションという身近な課題について、科学的な見方を整理しました。客観的に示されると目が開く部分が多々あります。

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