The idea behind stamped money is sound. It is, indeed, possible that means might be found to apply it in practice on a modest scale. But there are many difficulties which Gesell did not face.
John M. Keynes, General Theory (1936)
ケインズはその著書「一般理論」で、ゲゼルが提唱した貨幣印紙税について言及しています。貨幣に印紙税がかかるようになると、それを持っているだけでコストがかかるから、皆、貨幣を使うようになって経済が回りだすというロジックが紹介されています。彼は、穴を掘って埋めるだけの公共投資でも、お金を回すことができるという意味で短期的には有効だとまで言っているので、ゲゼルの説も完全否定はしていません。しかし、当然ながら、お金を回すことが目的ではなく、あくまでお金の行き先である需要が更なる需要を生むような状況を作り出すことが目的だから、例えば、穴を掘って埋めるだけの需要を作り出すことが適当だとは考えていません。
貨幣印紙税は、需要を無理やり作り出すかもしれません。不要不急のものでなくとも、お金の価値が下がる前に買っておこうという消費が生まれる可能性はあります。
ただ、彼は別のマクロ的問題について言及しています。貨幣が貨幣である理由は、それに多大な信用があって、且つ、流通させるコストが極めて低いためであり、貨幣印紙税はこれらを損なうことになります。そうすると、貨幣に代わる何かが貨幣の役割を果たすようになり、結局、政策の意味がなくなる。貨幣に代わる適当なものがなければ、モノの動きが鈍り、経済政策の機動性が失われてしまうと説いています。
2016年1月、日銀がマイナス金利政策を導入しました。それ以来、短期金利のみならず長期金利も低下し、イールドカーブがフラットに近づいてきています。まだ個人の預金口座がマイナス金利になるまでには至っておらず、各銀行なり機関投資家が運用先を多様化してマイナスを埋めようとしています。報道を見ますと、REIT(不動産)やETF(株式)への配分を増やすファンドが増えてきているし、日本最大の投資家である郵貯の運用姿勢も変わりつつあります。
こうしたマイナス金利が金融機関にもたらすコストは、早晩、消費者に転嫁されることになるでしょう。おそらくは、生命保険や損害保険の保険料は上がっていくでしょうし、銀行の手数料だって上がっていくでしょう。年金は確実に減っていくでしょう。まして、(個人的な見方に過ぎませんが、)REITやETFがリスクに見合った価格を付されているとは思えず、銀行や機関投資家の資産の質が悪化している可能性があり、消費者への影響が想定以上になることが危惧されます。そうすると、メリットよりデメリットの方がはるかに大きい。
こうなると、マイナス金利は需要を作り出すどころか、消費者の消費意欲を奪ってしまいます。日銀は後戻りできません。振り返って、この施策が景気回復に寄与したと言える日が来ることを望みます。