コスト削減という課題に対して確立した確実な手法があればよいのですが、そういった便利なものに巡り合ったことはありません。しかし、財務部門にはコスト削減という課題に対して説明責任がありますから、課題への対処方針を明確に示さないといけません。今までの私の経験から、説明責任を果たす上で適当なアジェンダについて纏めてみました(特に工場組織で重要な効率改善によるコスト削減は除いています)。
役割と責任の重複を排除する
組織図と各組織の役割を俯瞰すると、必ず重複が見えてきます。あくまで例として某製薬企業の組織図(販売本社組織)を見てみたところ、20を超えるスタッフ部門を含む50を超える部と、10を超える支店を抱えていて、一瞥したところ違いのわからない部がいくつも目につきました。財務関係では「経営企画」と「FP&A」が並存し、薬事関係では「薬事」と「メディカル・アフェアーズ」が並存し、販売関係では「プロダクト・マーケティング」と「製品戦略」、「渉外」と「事業開発」が並存しています。おそらく、役割と責任の詳細を見ればそれぞれ必要な機能なのかもしれませんが、コスト削減という課題に照らすと統合すべきです。まず第一に、重複を排除したということを説明すべきです。
購買オペレーティング・モデルを検証する
企業は多額のモノやサービスを購買しています。経営者や株主は多くの場合、購買活動に少なくないコスト削減機会があると見ています。購買担当者が取引先に対してできる限りの交渉を行っていても、その1件1件が適切な価格で行われていることを示すことは容易ではありません。
購買活動について、いくつか経営者が気にするポイントがあります。まず、過去のしがらみや癒着。人間関係で購買先や価格が決定されているとき、概して高い。何より、コンプライアンス上の問題を内包しています。次に、入札の有無。透明な入札プロセスを経て購買先が選定されている必要があります。そして、定期的な購買条件の見直し。日本の購買契約は自動延長が基本になっていますが、必ず定期的な条件交渉を行うべきです。こういったポイントが、適切に教育された専門家によって運営されるオペレーティング・モデルになっていることを示す必要があります。
各機能のオペレーティング・モデルを検証する
経営者から見れば、売上を作るための活動に少しでも多くの資金を割り当てたいので、財務や人事といったサポート・ファンクションへの資金割り当ては極力小さくしたいと考えています。アウトソーシングによって専門家を適切な費用で活用できているか(或いは、そういったことを念頭においたモデルになっているか)、外資系企業の場合は、グローバル・サポート・ファンクションへ移管可能な業務はないかといったところを検証し、オペレーティング・モデルの妥当性を説明する必要があります。
また、売り切りではなく、カスタマーサービスにリソースがかかる事業の場合、それを最適化するような改善努力が働くオペレーティング・モデルを設計する必要があります。こちらの記事を是非参考にしてください。
組織ベンチマーキング
ベスト・プラクティスをベンチマークとして比較することができれば、コスト競争力のある組織を実現できます。しかし、組織体制のベスト・プラクティスは定義が難しいので、実務的には、経験から仮想ベスト・プラクティスを示すしかありません。財務でいえば、部長の配下でFP&A、会計、トレジャリーに各責任者がいて、各責任者の配下に数名のスタッフがいるという最も効率的な組織を想定し、それと比較することによって効率化余地を示します。分析業務は、ITに頼るところが非常に大きく、また、分析業務から種々の提案が期待されることから、財務の中にBIツール構築責任者をおくことも妥当だと思います。
重要なことは、ベンチマークにない役職をおかないことです。古い組織ですと役職がなくなってしまう事例が頻出しますが、コスト削減という課題に照らせば仕方のないことです。
社内サービスに値段を付して損益責任を明確にする
事業の性格によって損益管理の単位は様々でしょうが、例えば事業部別に損益管理をしている場合、サポート・ファンクションのコストをどう割り振るかが課題となります。多くの場合、使った費用を売上高や業務量を用いた比率で割って配賦するというやり方を採用しているでしょうが、私は、可能な限り、サービスあたりの値段をつけることにしています。
財務サービスのようにベンチマークがあれば値段を付しやすいのですが、カスタマーサービスのように、事例がまちまちで値付けが難しいものもあります。しかし、大きく間違わない限り、まず値付けして、損益管理の単位に組み込んで採算を計ることが重要です。実績配賦との違いは、損益管理単位の責任者に「サポート・ファンクションのコストが高い」と言い訳をさせないところと、同時にサポート・ファンクションに対して、市場価格との競争に晒されることによって、具体的な改善努力を求めるところにあります。
スタッフに知恵を出させる
コスト削減についてスタッフに知恵を絞っていただくことを否定しませんが、それらは自ずと、人は減らさない、給与は下げない、自分の関与している仕事はなくさないといった制約のもとでの提案ですから、一般的には効果が小さいものが多い。
私の経験からは、むしろ、小さな投資を伴ったとしても業務改善の知恵を出してもらうほうが良いと感じます。ペン1本を節約するより、色の違うペンを5種類用意してビジュアルに訴えかける掲示を行うとか、情報を掲示するためのホワイトボードを準備するとか、コミュニケーションを良くするために喫茶スペースを作って無料でコーヒーを提供するとか、そういった提案は検討に値します。
コスト削減という課題に対しては、「限界までやってます」では説明責任を果たしたことにならず、限界までやりながらも論理的な説明が必要です。上記アジェンダを参照して説明できれば、ステークホルダーも納得すると思います。