アイスマン・エッツィー

1991年にアルプスの山中で発見されたエッツィーという名のミイラは、とても多彩な話題を提供してくれています。そもそもミイラとして埋葬された訳ではなく、たまたまそこで何者かに殺され(殺人事件!)、そのまま氷の中で5300年を過ごしていたらしく、内臓がそのまま残っていて保存状態も極めて良い。最初に発見したドイツ人旅行者は、不幸にも最近遭難したハイカーだと思ったようで、それほど人間の形をしていたということです。何度かNHKほかテレビ番組で取り上げられていて、かなり有名になっているのかもしれませんが、いくつかの全く異なる分野の思わぬところでエッツィーの話を見つけて、彼の影響力の大きさを改めて認識しました。とても興味深い話なので、このブログに記しておこうと思います。

まず、エッツィーが腰痛に悩まされ、鍼治療を受けていたという話。サイモン・シンが著した「代替医療解剖」という本に、ドイツ人医師フランク・バールにより行われた調査が紹介されています。彼は、エッツィーの体のいろんな場所にある入れ墨に興味をもち、その場所を詳しく調査したところ、その80%が鍼治療で用いられる経穴に対応していることがわかりました。鍼治療の専門家によるその後の分析でも、その見方が支持され、さらには皮膚の位置が変化したことを考慮すれば、残りの20%すら経穴に対応している可能性があるとの見方まで示されています。そしてそれらの経穴は腰痛緩和に用いられるもので、実際、その後のCT検査において、エッツィーの腰骨に関節炎があったこと、そして、腸の内容物の検査で腸の不調を引き起こす寄生虫がいたことがわかり、エッツィーが腰痛に悩まされていたということが示唆されています。

そして、エッツィーが銅の精錬業者であったという話。「世界史を変えた50の鉱物」という玄人好きする本には、エッツィーの有していた銅製の斧について詳しい紹介があります。斧は長さ60センチで、先端に9.5センチの鋳造した銅の刃がついていました。その純度は99.7%。武器として使用できることは当然ですが、木を切るとしたら30分で1本を、切れ味を損なうことなく切り倒すことができるそうです。ヨーロッパ地域の銅の産地としては、Copperの語源にもなっているキプロス島が有名ですが、5300年前といえばキプロスでの開発も交易も行われておらず、自然銅が取れた地域で独立的に使用されていたと考えらます。エッツィーの毛髪が高濃度の銅に汚染されていたことから、彼はその地域の銅の精錬業者で、アルプス山中で銅鉱石を探す旅の途中であったという説があるのです。真偽を判断するのはとても困難ですが、仮説を吟味するだけでも十分に興味深い。

現在、エッツィーは再び冷凍保存されており、科学の進歩をまって、再び研究に使われることになります。本人は予想だにしなかったであろう大活躍ですね。

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