イノベーター理論で市場浸透度合いを表す以下のカーブが有名ですが、多くのIT製品やサービスについて私自身、ずっとLate Majorityでした。しかし、ITへの信頼が増しているのか年齢的に先が少なくなった焦りからくるのか、最近では少なくともEarly Adoptorに位置していると感じます。Early AdoptorとEarly Majorityとの間には死の谷とよばれる深い溝があり、ここを乗り超えられるかどうかが、サービス定着の肝になるといわれていますが、Uber Eatsはそこを超えてMajorityを取りに行くサービスになってきているのではないかと感じています。実際、GAFAとかMATANAと呼ばれるBig Tech企業にはまだ入っていないものの、Uber Technologiesは着実に業績を拡大しています。2024年に黒字に転換し、来年(2026年)には利益1兆円を窺う状況で、既に時価総額でUberに勝る日本企業はトヨタぐらいです。われわれの暮らしにUberがもたらす価値は何なのか、蕎麦屋の出前とUber Eatsは何が違うのかという身近な問いを通じて考えてみました。

蕎麦屋の出前
蕎麦屋の出前では、店舗で食事をするのと同じ値段で注文を受け付けます。Uber Eatsでは店舗で食事する以上の価格を払います。蕎麦屋の出前サービスが赤字で、Uberが黒字というなら、蕎麦屋が赤字を抱えてまで出前を継続する理由が見つかりませんから、おそらくは蕎麦屋も黒字になっています。例えば、20席が1時間あたり1回転する蕎麦屋で1人がホールを担当しているとします。この状況をベンチマークとするなら、出前は1時間で20品目を1名の配達員でお届けすることになります。そこでは、オーダーごとの品目数、配達先の距離、そして、複数配達先の位置関係がベンチマーク達成の鍵になります。オーダーあたりの平均品目数が4品目であった場合、5オーダーを1時間で配達することになり、配達先1件平均12分で往復できればベンチマーク達成です。市街地をバイクで6分移動できる距離を3キロとすれば、往復6キロを5回移動するので、5件の配達先それぞれの往復距離の合計が30キロ以内であればベンチマークを達成できます。往復距離が短かったり、オーダーあたりの品目が多かったり、複数の配達先を1度に回ることができる位置関係にあれば、ベンチマークを上回ることが可能になります。
Uber Eats Economics
このように配達サービスの分析粒度を上げていきますと、具体的な採算のイメージが見えてきます。同時に、もっと粒度の細かい分析が必要だということにも気づきます。例を挙げると、配達先でチャイムを鳴らしてから受け取っていただくまでの時間、行き帰りでの渋滞の有無、配達員がその地域の道をどこまで知っているか、バイクの積載上限などなど。そして、配達サービスを店舗から切り離した場合、ドライバーさんを動かすコストが変数に入ってきます。ドライバーさんの時給は地域や時間帯、天候によって異なります。雨の夕方などはインセンティブを払わないと集まらないのではないかと推測します。ドライバーさんの待ち時間は、オーダーの頻度により決まります。売れている店、または、Uber利用店舗が密集している地域では待ち時間は小さくなります。
Uberは、上記で例に挙げた変数に関する詳細なデータ分析を通じて、店舗、お客様、ドライバーさんが納得する価格を提供することによって、市場に潜在的にいるドライバーを掘り起こして配達サービスという新しい産業を立ち上げようとしています。そういう意味では物流業界にイノベーションを起こしつつあります。
ドライバーになるのに必要なのは運転免許くらいで、自転車とか小型バイクですぐに始められます。引退した方々や不規則な時間帯で働いている方々が空き時間で小遣い稼ぎをするなど、Uber Eatsが世の中に浸透するにつれてドライバーさんはこれからどんどん出てくると思います。表札の読み方さえアプリで解決できれば外国人ドライバーさんがもっと増えます。店舗側から見ると、Uberの配送料に合わせて小売価格を変更することで、売上最適化を図ることができます。ドライバーさんがたくさんいらっしゃる状況で、小売価格を上げるとか、むしろ小売価格を下げて量を捌くとか、大雨の日は小売価格を下げるとか、お客様が最終的にお支払いする価格を想定しながら、店舗の売上をコントロールできます。また、Uber Eats商圏を絞ることも大事です。店舗から10分圏と20分圏では配送コストが大きく違って、10分圏内のみチラシをまいて認知を高めることによって、リピーターを増やすことが可能化かもしれません。また、このサービスモデルがお客様の密度に大きくかかわっていることを考えると、地域で連携してUber Eatsを使うことも、結果として、ドライバーさんを増やすことになって、自店舗の売上に貢献することになります。突き詰めると、店舗をもたなくても飲食業が成り立つ状況になり、実際、店舗をもたないゴーストレストランとかがたくさん出てきています。
Uber Eats Economicsでは、飲食業成功の軸にドライバーさんの掘り起こしと有効活用という軸が加わりました。こうした見方に対して皆さまのご意見を賜れましたら誠に幸甚です。