マイケル・ポーター教授の競争戦略論で、企業が取るべき戦略のひとつとされるコスト・リーダーシップについて議論する機会がありました。市場であたかも「コスト・リーダーシップ=安売り」という構図で理解されているかのように過剰な価格競争が見られ、日本企業の収益率が極めて低いという状況を招いているとする見方です。「コスト・リーダーシップ=安売り」という解釈が正しくないことは言うまでもありません。実際、コスト・リーダーシップの成功例として多くのケースに登場するウォルマートは、近隣多店舗で売られている商品の価格より魅力的な価格で提供しましたが、その価格を別の場所と比較すれば必ずしも安くないという事例が多々ありました。あくまで市場が価格を決め、企業はコストをコントロールするのです。
この議論の中で、日本企業が相対的に低収益であるというところは深掘りする価値があります。そこから「差別化」ができておらず顧客に価値を認めてもらえていないという、「コスト・リーダーシップ」とは別の戦略に話が移行していきました。回りくどいストーリーではなく、ストレートに「差別化」を議論すればよいのにと思いながら、議論を聞いていました。
日本企業の収益率はリーマンショック時の一時的な落ち込みを除いて近年着実に向上していますが、マクロデータやマイクロデータを用いた日本経済の実証分析によれば、それはリストラや非正規雇用の活用といった言わば守りの経営の結果であって、設備投資など前向き投資による規模の経済獲得の結果ではないとのことです。
実証分析を行った小川一夫教授の著書によれば、その処方箋は需要サイドの刺激であり、もっとも有効な施策は公的年金の整備など将来不安の払拭であるとのことです。個々の企業を見れば「差別化」戦略の空振りという理由もありましょうが、政策提言としては妥当だと思います。