貿易戦争

このところ米中貿易摩擦や英国のBrexit(EU離脱)が株式市場を混乱させています。自国を優先するイデオロギーが、少し前まで考えられなかったほど勢いを増しています。僕の世代は、ずっと自由貿易礼賛、資本主義が豊かな社会の礎だという見方の中で過ごしてきたので、自国優先の世論が間違っているように感じてしまいます。

国際貿易のメリットを経済学的に表現したものがリカードの比較優位説で、国際貿易によって世界全体の労働力のもっとも効率的な活用がもたらされることを示しました。2国2財モデルによれば、AB2財が異なる労働生産性で両国で生産されているとき、それぞれがAB2財を生産するより、片方が労働生産性の相対的に高いA財、他方が労働生産性の相対的に高いB財に特化し、それらを貿易により交換した方が、同じ労働投入量でよりたくさんの財が生産できるとして、貿易のメリットを主張しました。

もっとも、世界全体の労働力の有効活用に着目したこのシンプルな理論が提唱された背景には、各国がそれぞれ自国の労働力の有効活用を志向しすぎるという古くて新しい課題があります。実際、特定分野に資本投下して労働生産性を高め、貿易を通じて世界の需要を取り込もうとする国家レベルの努力が散見され、インドのIT技術、中国の家電、韓国の造船、フランスの原子力、米国の宇宙航空機など、多くの事例が見て取れます。

国際貿易が制限されれば、世界全体の労働力は効率的に活用されず、貿易のメリットを当てにした資本投下は無駄になります。そんな非効率な供給体制のもとでも需要が満たされているとすれば、需要不足解消が真の課題であり、貿易戦争ではなく、需要喚起のための国際協調を議論してほしい。再生可能エネルギー社会の実現、紛争解決と復興、知的財産保護、国際金融セーフティネットの整備など、価値ある施策はたくさんあるはずだから。

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